ドイツ人の働き方~生産性が日本より40パーセント高い秘訣

日本では「働き方改革」を政府が掲げてさまざまな政策が作られ企業においても長時間労働の是正や、休暇の取得の推進、同一労働同一賃金と多くの取り組みが進められています。以前に比べて、労働環境は改善されていますが、他国と比べてみるとまだまだ、日本の労働時間は長く、生産性も高いとは言えません。今回は、労働時間も短く、労働生産性が日本にくらべ約40パーセントも高い、「ドイツ」における「働き方」ついて紹介します。日本人と同じく「勤勉」なイメージのドイツ人ン。そんなドイツ人の働き方が今後の日本にも大いに参考になると思います。

ドイツは日本と比べて生産性が40パーセント高い

ドイツは先進国の中で、一番労働時間が短いといわれています。年間の平均労働時間でドイツは日本と比べて約350時間も短いという調査結果があります。1日で約1.2時間の差。労働時間は短いですが、1時間当たりの労働生産性で日本よりも約40パーセントも高いという結果をたたき出しています。なぜ、このような結果となっているのでしょう?ドイツの働き方・労働環境の特徴について紹介していきましょう。




ドイツは労働時間の管理~長時間勤務の禁止

労働時間が短くなる要因としてそもそも、法律で長時間労働を禁止しています。1日10時間を超える労働を禁じていて、発覚すると経営者は1500ユーロの罰金、最も重いと禁固刑を科せられる場合もあります。原則8時間の労働で、かりに伸びてしまった残業分は後日、早く切り上げて労働時間を相殺させることが求められています。トータルでの総労働時間が厳格に管理されています。また、一部の例外を除いて店舗は平日の午後8時~午前6時、日曜・祝日は終日営業が禁止されています。店舗労働者がしっかり休めるよう、法律で明確に定めています。

ドイツは充実の有給休暇制度

労働時間の制度として特徴的なものとして、労働時間貯蓄制度という法律もあります。残業した時間を貯めて、有給休暇として取得できるという制度です。また、ドイツでは有給休暇は24日付与されることが法律で定められています。(多くの企業は30日間の設定)日本とは異なり、ドイツ人はしっかり休暇を取りということは当然であるとされていて、しっかり有給休暇を消化しています。(ドイツでは付与される有給休暇の9割を消化、対して日本は約5割程度。日本の有休消化率は世界最下位といわれています。)

ドイツでは有給休暇を使って長期の旅行にいくという人も珍しくありません。休暇を取ることが当たり前なので、仕事で取引先の担当が休暇で不在でも、当たり前のことで誰も怒りません。ドイツでは病気での休暇と、有給休暇は別のものと区別されており、有給休暇は健康な時に取得するものという文化が根付いています。(日本だと病気や怪我での休みを有給休暇に充てるということが当たり前になっています。)

ドイツはフラットなコミュニケーション

日本では役職というと上下関係の表すことが多く、上司、部下というような階層が存在しています。業務命令を上長から部下に発するというようにビジネスのコミュニケーションにおいても、指示命令という側面がつよい部分があります。会議でも役職が上位による報告が多く、形式的で非効率的な面も否めません。一方、ドイツでは、役職は役割というとらえ方が強く、マネージャーや経営者など、あくまでその役割を担っているものという認識で上司・部下という発想がありません。現場の社員であっても対等な関係で、フラットなコミュニケーションが旺盛に行われています。個々の役割においても権限の委譲がしっかりなされていて、個人の裁量で意思決定できる機会が多くあります。日本では上長の承認をとるために稟議書をかき、各上長のハンコが必要ですが、そのような回りくどい手続きもありません。

また、ドイツ人は効率性を非常に重視します。仕事の手間を最小限に抑え最大限の効果を生むための働き方を意識している人が多くいます。そのため、自分の仕事が終われば、さっさと帰るし、自宅で業務が可能であればテレワークを推進して効率の良い仕事環境を志向する動きが活発です。(意味もなく出社することを強要する日本とは違います。)

ドイツは職場にも根付いている個人主義

ドイツ人の気質の大きな特徴としてあげられる点として「個人主義」ということが挙げられます。日本にはない特徴で、自分の仕事が終われば、同僚に気兼ねすることなく、さっさと帰宅することもでき、有給休暇の取得も当然のこととしてとらえられています。

日本では周りとの協調性ということを重んじ、みんなが仕事をしているから、自分の仕事が終わっても帰りづらい雰囲気もあり、みんなが仕事で忙しい時期に休みを取ることを躊躇する文化が根付いています。この点も日本の労働時間が減らない要因の一つとなっています。

ドイツ人はなんでも自分でやるという精神が根付いており、日本では当たり前とも思われる「サービス」を過剰と認識しています。お店での包装なども日本では総菜や、パンなど一個一個別の袋にいれられるなどの細かなサービス=過剰なサービスが多く存在しています。そんなこと自分でやるからいいですよというのがドイツ人の発送。

日本では消費者視点での発想が多く、「お客様は神様です」の精神がこの過剰なサービスを生んでいます。ドイツでは、労働者としての視点がつよく、働く側の立場で物事をとらえることが多いので、最低限の業務のみで皆が納得をしています。効率的な労働を皆が志向しているので、過剰なサービスが発生しません。この精神も労働生産性の向上につながっているのかもしれません。


ドイツキャリア教育の充実

ドイツでは労働者の権利が守れています。労働者としての自立・独立の意識がみな強く、自身のキャリアについて学ぶ機会があり、小さいころからキャリア教育が徹底されていますドイツでは小学校卒業後(ドイツの小学校は4年制)1:基幹学校→職業訓練コース 2:実家学校→職業専門学校または、上級専門学校へ進学 3:9年制の中高一貫校で大学入学の資格を取得し、大学進学 の3からいずれかを選択します。10歳で自分の将来についての選択を迫れることになります。

社会に出ても必要なスキルなどを職業訓練などで学び、転職などを通じて自身のキャリアを積み上げていきます。ドイツ人は主体的に自らのキャリアを築いていくという意識がとても高く、キャリア教育の充実という点も労働生産性の高さの要因となっています。

日本における働き方改革

日本でも少子高齢化社会の中にあって、今までとは違う、多様な働き方、長時間労働の是正などの働き方改革が叫ばれています。

日本では「魅力ある職場づくり」→「人材の確保」→「業績の向上」→「利益増」

というサイクルを構築すべく、まずは魅力ある職場であるために、労働者視点で、職場環境をよくしていこうという動きが加速しています。

以下、日本の働きから改革での主な制度を紹介します。

1:労働基準法の改正により、年次有給休暇を毎年5日確実に所得させることが義務化。(年次有給休暇付与日数が10日以上の全労働者に対して)

2:残業時間の上限制限として原則月45時間、年360時間としてこれを超えてはならない。

3:同一賃金・同一労働、・・正社員と非正規雇用労働者との間での待遇などの差を設けてはならない。

ドイツと日本の働き方の違い

日本でも働き方改革をすすめ、生産性を向上させるべく政府も企業も様々な取り組みをすすめています。制度や法律などを整備して長時間労働を是正しようしていますが、ドイツと比べてなかなか労働生産性が上がらないのは政府のすすめる政策がまだ、足らないという点ですが、文化や価値観の違いといった点も大きな要因です。

日本の生産性向上のために

1)サービスレベルの見直し

消費者視点からの意識が日本は強く、過剰サービスな点が多くあります。労働者の視点をドイツのようにもつことで、例えば、コンビニエンスストアなど24時間営業する意味があるのか?費用対効果で考えて、さまざまな職種で例え、サービスのレベルが下がってもそれを容認する文化を造成することで総労働時間は削減され、かつ無駄な労働が減っていくことでしょう。

2)人につく仕事をなくす。

〇〇さんがいないとできない仕事というのが日本の企業には多く存在します。ドイツ人のように有給休暇で長期間の休暇がとれない原因もこの仕事・業務が人についている、属人的な仕事が多いという点もあげられます。タスク管理をチームで行い、皆で業務管理ができうるような仕組みを組織として構築することがとても大切になってきます。

3)非効率な仕事の見直し

デジタル社会の構築を推進していくということも現在、政府や多くの企業によって叫ばれています。紙やハンコの文化で、非効率な業務も多く存在しています。デジタル技術を利活用することで、今までの習慣、慣例でおこなってきたことを電子化することで、無駄な業務を減らすことも生産性向上につながります。ドイツ人のように効率的な思考を各人、各企業が持つことで、無駄な業務も一気にへっていくことでしょう。コロナ禍で一気にテレワーク、リモートワークが進みました。ただ、やっぱり出社してみんなが同じところにいることがいいのだという、企業も少なくありません。テレワークは移動のコストもなくなり、業務の効率もあがるスタイルです。多様な働き方として、より定着させるべく、日本全体で推進すべきスタイルです。

4)より休みやすい環境へ

日本は有給休暇の取得率が世界で最低レベルといわれています。要因としては、休みにくい職場の雰囲気。周りの目を気にする、協調性を大事にする日本社会の文化といった点があげられます。年間5日間取得させなければならないという制度ができて、やっと5日間取得できるようになったというレベル。ドイツでは30日間をしっかり使い切る方が大半です。

日本の企業では、属人的な仕事が多いという点もですが、仕事を休むということが、後ろめたいという認識はまだまだ多いのが実情。この後ろめたさを少しでも薄めていく取り組みを進めていくことが重要です。権利として当たり前に休めるような制度の整備をより進める必要があります

5)お金以外の価値観

たくさん働いていっぱい稼ぎたいという価値観を持つ人にとっては、働き方改革なんて、関係ないのかもしれません。ただ、そんな価値観をもった人が経営者になってしまったら、従業員がかわいそうです。多様な価値観をもち、お金だけではない、健康的な生活を皆が感受できるような社会保障制度の充実も必要です。皆が、平均的な生活を送れるような雇用制度やセーフティネットの充実を図っていくことも必要です。ドイツ人の多くは「仕事は生活の糧を得る手段に過ぎず、個々人の生活を犠牲にはけっしてしない」という価値観を持っているといわれています。しっかり休み、金銭的な価値が下がってもワークライフバランスをしっかりとる。趣味や家庭を大切にする、金銭以外の価値に目をむけることが必要です。

おわりに

ドイツと日本の働き方の違いについて紹介してきました。法律でしっかり労働時間が厳格に管理され、有給休暇をみなしっかり取得している点、仕事のスタイル、価値観など、制度面、法律面はもちろん、文化、国民性という点でもドイツ人の働き方は日本と多くの違いがありました。ただ、休みが多いというだけではなく、生産性も高い秘訣としてのキャリア教育の充実という点や、役職=役割ととらえ、フラットなコミュニケーションや効率を重視した考え方など日本の働き方改革にも参考になる点も多くありました。

ただ単純に働く時間を制度や法律で規制しても生産性は上がりません。日本政府がすすめる働き方改革の趣旨は、職場環境を向上させて、生産性をあげること。そこには企業の利益アップももちろんですが、労働者にとってもメリットがなければなりません。(単純に給与が下がって生活が厳しくなるというのでは、意味がありません。)日本全体の生産性が向上することで社会インフラ、社会保障が充実することで国民全体の生活の質が向上する。

国全体、各企業、各人がそれぞれ意識的に自身の働き方に関して目を向けて、新しい価値観を持つことが大切です。

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